交通事故における自賠責保険・任意保険・弁護士会(裁判基準)それぞれの支払い基準
交通事故における慰謝料などの金額を算定するとき、一般的に基準は3種類あります。 自賠責保険と任意保険会社が独自に制定している規準と判例の蓄積を基に定めた弁護士会の基準(裁判基準)です。
それぞれの基準について説明します。
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自賠責保険について
自賠責保険総則
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自賠責保険総則
自動車損害賠償責任保険の保険金等の支払は、自動車損害賠償補償法施行令(昭和30年政令第286号) 第2条並びに別表第1及び別表第2に定める保険金額を限度としてこの基準によるものとする。
保険金額は、死亡した者又は傷害を受けた者1人につき、自動車損害賠償補償法施行令第2条並びに 別表第1及び別表第2に定める額とする。ただし、複数の自動車による事故について保険金等を支払う 場合は、それぞれの保険契約に係る保険金額を合算した額を限度とする。
自賠責保険の特色
人身に対する損害のみを対象としており、車両などの物損は対象外です。
任意保険に比べると慰謝料等の支払条件や免責事由、過失相殺においてかなり緩和されています。交通事故被害者に70%以上の過失がなければ減額されません。被害者の過失 減額割合 後遺障害または死亡 傷害 7割未満 減額なし 減額なし 7割以上8割未満 2割減額 2割減額 8割以上9割未満 3割減額 9割以上10割未満 5割減額 ※被害者の過失が10割の場合、自損事故などは自賠責保険から保険金は支払われません。 自賠責保険は傷害なら1台あたり120万円と上限がありますので、自己に過失がある場合や、加害者が 任意保険に加入していない場合、自身の健康保険や通勤災害なら労災保険を使用して自己の負担を軽減する処置をすべき場合があります。
例えば、過失割合が50%で治療費が自由診療で200万円と考えた場合を考えると・・・
健康保険を使用しなかった場合、200万円の過失分(50%)の100万円は被害者の負担となりますので、最終的に慰謝料から 差引かれる事になります。
健康保険を使用した場合、治療費の点数単価が1点10円となります(自由診療の場合は1点20円が多い、また過剰診療も多く見られる ことがある)ので治療費は100万円となり被害者の負担は過失分(50%)の50万円で済みます。
この場合、健康保険や労災保険を使用すべきといえます。
また、自賠責保険には自己に過失が100%でない限り2割までしか減額がありませんが、弁護士会基準や任意保険基準では厳格に過失相殺 がありますので、過失有無や傷害の程度によっては、健康保険、労災保険使用はもちろん、途中で治療打ち切りも視野に入れる必要がある 場合があります。
例えば過失割合が自己に60%、治療費が50万円、慰謝料が100万円と考えた場合で自賠責保険で請求した場合・・・- 損害額150万円
- 治療費、慰謝料の減額は無し
- 自賠責保険での支払上限120万円
結果、治療費50万円を差引けば自賠責保険での慰謝料は80万円。
更に、通院して治療費が100万円、医者朗が200万円の場合・・・- 損害額300万円
- 治療費、慰謝料は120万円を超えたので任意保険基準(弁護士会基準)で計算
- 慰謝料は過失相殺60%で80万円
結果、治療費は自己に60%の過失があるので60万円は自己負担、よって 慰謝料の80万円から治療費を負担すれば慰謝料は20万円。
このような場合は、やはり健康保険(労災保険)を使用し、なおかつ、自賠責保険の限度額で通院を打ち切る必要があったといえます。自賠責の保険金上限額 死亡 傷害 後遺障害 3000万円 120万円 4000万円 -
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任意保険基準について
任意保険とは
任意保険とは、自賠責保険とは異なり、クルマを所有する人の任意によって加入する保険で、 自賠責保険の補償だけでは不足しがちな損害賠償額を補うことを目的に、加入者自らが 選んで契約する自動車保険のひとつです。
任意保険の基準について
任意保険会社は任意保険の約款に「法律上の損害賠償金を支払う」と記載されていることから、 本来は弁護士会基準(裁判基準)と同様になるはずです。
ですが、現実には自賠責基準を参考に独自に判断し、 その基準で支払いがされているようです。
弁護士会の基準(裁判基準)と比較して任意保険の基準はかなり低くなっています。
各社横並びに一定基準で審査するというのは、独占禁止法に違反するのではないかという問題が浮上し、このため、現在では 任意保険としての会社一律の基準ではなく、ケースバイケースで各社が査定しています。
といっても、損保や共済は各社ごとに独自の任意保険基準を設けているようですが。
任意保険の査定の実績をみるかぎり、慰謝料などは自賠責基準と 弁護士会基準の中間値をとるか、どちらかといえば自賠責基準寄りの慰謝料をとるこが多いように感じます。 -
弁護士基準(裁判基準)について
弁護士基準(裁判基準)とは
弁護士基準とは、裁判所の考え方や判例などを参考に東京三弁護士会の交通事故処理委員会が 公表しているもので、多くの裁判所で裁判基準としても運用されているものです。
具体的には「民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準」(通称「赤本」の基準)と 「交通事故損害額算定基準」(通称「青本」の基準)を基準として交通事故の慰謝料等を算出します。
東京地裁交通部(民事第27部)の見解は、「赤本」に反映されています。裁判外でも「青本」より「赤本」の方が実務の準則として 活用されているようです。 -
それぞれの基準を比較
自賠責基準と任意保険基準と弁護士会基準(裁判基準)
よくある損害賠償の請求項目の金額を比較した表を示します。
損害項目・内容をクリックすると詳細が確認できます。何故、任意保険からの提示金額は低いの?
交通事故における任意保険の約款には「法律上の損害賠償金を支払う」と記載されていることから、 本来は弁護会基準(裁判基準)と同様になるはずです。
ですが、現実には自賠責基準を参考に独自に判断し、その基準で支払いがされているようです。注意
任意保険の支払い基準は各保険会社で異なります。よって、次の表に示す金額もあくまで参考までのものです。損害項目・内容
(傷害事故の場合)自賠責保険 任意保険 弁護士会(裁判基準) 治療費・入院費・温泉治療・マッサージ・はり灸代 必要かつ妥当な実費 原則として実費全額 原則として実費全額 入通院慰謝料 1日4,200円 裁判の判例を基準(赤本、青本)に算出 裁判の判例を基準(赤本、青本)に算出 症状固定後の治療費・将来の手術費等 - 原則、認められない 原則、認められない 入院時付添人看護費用・在宅付添費 - 職業的看護人は実費全額・ 親近者付添人は1日6,500円~8,500円 職業的看護人は実費全額・ 親近者付添人は1日6,500円~8,500円 通院付添 1日2,050円 1日3,000円~4,000円 1日3,000円~4,000円 将来の付添費(将来の介護料) - 職業的看護人は実費全額・親近者付添人は1日6,500円~8,500円 職業的看護人は実費全額・親近者付添人は1日6,500円~8,500円 雑費 1日に1,100円 1日に1,400円~1,600円前後 1日に1,400円~1,600円前後 通院交通費 実費 原則として実費 原則として実費 葬祭費 60万円 130万円~170万円 130万円~170万円 家具、自動車改造費等 - 実費相当額 実費相当額 装具・器具等購入費 義肢、歯科補てつ、義眼、眼鏡、補聴器、松葉杖に上限が定められている・歯科補てつについては、歯冠、継続歯及び加工義歯については、1歯について8万円の範囲内とする・眼鏡(コンタクトレンズ含)については5万円を限度とする 義足、車椅子、補聴器、入歯、義歯、義眼、かつら、義歯、義足等、医師の指示あれば、交換の必要があるものは、将来にわたっての費用も相当額認められる 義足、車椅子、補聴器、入歯、義歯、義眼、かつら、義歯、義足等、医師の指示あれば、交換の必要があるものは、将来にわたっての費用も相当額認められる 将来の手術、義足、義歯、義眼等 - 相当額認められる・将来、手術することが確実視されること(半年~1年先)
義足、義歯、義眼は5年~10年ごとに作り替えが必要(ライプニッツ式計算による)相当額認められる・将来、手術することが確実視されること(半年~1年先)
義足、義歯、義眼は5年~10年ごとに作り替えが必要(ライプニッツ式計算による)子供の学習費、保育費等 - 被害の程度、内容、子供の年齢、家庭の状況を検討し、学習、付添の必要性があれば相当額 被害の程度、内容、子供の年齢、家庭の状況を検討し、学習、付添の必要性があれば相当額 弁護士費用 - 通常は示談で終わりますので、請求できません。 訴訟の場合は、慰謝料認定額の10%程度・和解の場合は、控除するのが一般 上記の任意保険会社基準に記載している内容は本来あるべき基準です。
冒頭でも述べたように任意保険会社はその約款に支払基準を「法律上の損害賠償金を支払う」 と記載しているにもかかわらず、あたかも当然のように独自の基準や自賠責基準を用いて示談金を低い金額に抑えようと対応してきます。
交通事故加害者の保険担当者の説明に疑問を持ったら、まずはご相談ください。-
治療費・入院費・温泉治療・マッサージ・はり灸代
室料は、その病院の通常な平均を基準とする。但し、重症又は空室がなく止む得ず特別室を使用した場合はその料金となる。
医師の指示に従ってすること(例)「湯治の必要あり」「マッサージの必要あり」という診断書の取り付けがされていること。 -
入通院慰謝料
入院慰謝料は入院期間で算出する。
裁判基準(裁判基準)では、概ね通院慰謝料の2倍程度となる。
通院慰謝料は通院回数と通院期間で算出する。
弁護士会基準は、症状によって基準より増加減する。 通院日数×3.5倍と通院期間の短い方の期間で算出する。
任意保険の基準の、保険実務では、慰謝料総額120万円までは、自賠責保険の基準で算出。 慰謝料総額が120万円を超えると、独自の任意保険基準で算出する。
自賠責保険の基準は、慰謝料の対象となる日数は、治療期間の範囲内で入通院を含む実通院日数の2倍に相当する日数とする。 つまり、入通院×2と通院期間の短い方を基準とする。ただし、あんま、マッサージ指圧師、はり師、きゅう師の施術は実施術日数とする。 -
症状固定後の治療費・将来の手術費等
弁護士会基準(裁判基準)は、症状の悪化を防ぐ為に特に必要とされるなら、将来の治療費として認められる。 将来、手術、治療、介護することが確実な場合も認められる。
任意保険の基準の保険実務では、殆ど認めないようです。 -
入院時付添人看護費用・在宅付添費
付添人の必要性は、医師の指示、又は必要があると認められる場合相当な限度で認められるます。
任意保険の基準の保険実務では、自賠責基準で提示します。
自賠責保険の基準は、12歳以下の子供で近親者が付き添った場合(それ以外医師の要看護証明があり、やむえない場合認める) 1日4,100円が認められる。 -
通院付添
被害者が子供・身体障害者・老人など必要がある場合 に認められる。
任意保険の基準の保険実務では、自賠責基準で提示します。
自賠責保険の基準は、自宅療養について医師から必要性を認めた場合、但し12歳以下の子供で通院等に近親者等が付き添った場合に認められます。 -
将来の付添費(将来の介護料)
後遺障害1級、後遺障害2級の場合に認められているが、状況次第では後遺障害3級以下の場合でも認められる。
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雑費
入院中の諸雑費として請求が認められるもの日用品諸雑貨(寝具、衣類、洗面具、食器等購入費)
栄養補給費(栄養剤等)
通信費(電話代、切手等)
文化費(新聞雑誌代、ラジオ、テレビ賃借料等)
任意保険の基準の保険実務では、自賠責基準で提示します。
自賠責保険の基準は、1日 1,100円を超える場合は証明書等により必要かつ妥当な実費が認められる。 -
通院交通費
症状によりタクシー利用がやむを得ないとされる場合以外は、バス、電車などの公共交通機関を利用した場合の料金となる。
自家用車利用の時は、ガソリン代、高速道路料金、駐車場料金など認められる。 -
葬祭費
任意保険の基準の保険実務では、自賠責基準で提示します。
自賠責保険の基準は、60万円(立証資料等により100万円の範囲内で必要かつ妥当な実費) -
家具、自動車改造費等
家の出入口、風呂場、トイレなどの設置・改造費、ベッド、椅子の調度品購入費、自動車の改造費など。 被害者の受傷、後遺症の内容を検討、必要性があれば認められる。
通常は後遺障害1級、2級と重たい障害を想定しているが、後遺障害12級でも認められた判例もある(大阪地判平2・8・6)(京都地判平14・12・12) -
装具・器具等購入費
任意保険の基準の保険実務では、症状固定後の費用は、殆ど認めないようです。
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子供の学習費、保育費等
受傷による学習の遅れを取り戻す為の補習費
留年したことにより、新たに支払った、あるいは無駄になった授業料
被害者が子の養育・監護ができなくなったことにより負担した子供の養育・保育費等
自賠責保険・任意保険・弁護士会(裁判基準)の通院慰謝料比較表
通院慰謝料の金額を比較した表を示します。
期間 自賠責保険 任意保険 弁護士会(青本) 1ヶ月 ~12.6万円 12.3万円 29~16万円 2ヶ月 ~25.2万円 24.6万円 57~31万円 3ヶ月 ~37.8万円 36.9万円 84~46万円 4ヶ月 ~50.4万円 46.7万円 105~57万円 5ヶ月 ~63万円 55.4万円 123~67万円 6ヶ月 ~75.6万円 62.7万円 139~76万円 7ヶ月 ~88.2万円 68.9万円 153~84万円 8ヶ月 ~100.8万円 75.0万円 165~90万円 9ヶ月 ~113.4万円 80.0万円 174~95万円 10ヶ月 ~126万円 84.9万円 182~100万円 11ヶ月 ~138.6万円 88.6万円 189~103万円 12ヶ月 ~151.2万円 91.0万円 194~106万円 13ヶ月 ~163.8万円 - 198~108万円 14ヶ月 ~176.4万円 - 201~110万円 15ヶ月 ~189万円 - 204~112万円 弁護士会基準(青本)に関して特に症状が重たい場合は上限額を2割増した金額まで増額を考慮する。
自賠責保険は加害者1名(加害者が複数いるなら増加する)に付き120万円の保証を限度とする。自分の示談金は金額が低いのではと、不安になったらまず相談して下さい。
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入通院慰謝料
自賠責保険は120万円を限度に1日4,200円×2または 入通院期間の短い方を基準として算出します。
慰謝料が自賠責保険の基準を超えると弁護士会基準(裁判基準)での慰謝料となります。この慰謝料は「任意保険基準」 と「弁護士会基準(裁判基準)」に別れます。
「任意保険基準」は、その名前通り損保会社が慰謝料を算出する時の基準です。
「弁護士会基準(裁判基準)」は大きく、財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部発行の「損害賠償額算定基準」、いわゆる 赤本と財団法人日弁連交通事故相談センター発行の「交通事故損害算定基準」、いわゆる青本に 分類されます。
赤本は、東京や関東地域に向いているといわれ、 それ以外の地域は青本が適しているといわれています。
しかし、現実には大阪の示談交渉に赤本で慰謝料を算出することも珍しくなくありません。
また、青本の慰謝料はたとえば通院1月の慰謝料は金16万円から29万円と幅があり その幅の算定が難しいです。
例えば、むち打ち症なら損保会社や加害者弁護士が青本をベースにした慰謝料の示談交渉に応じたとしても、 慰謝料の幅の少ない方を、先ほどの1月通院なら金16万円で提示されるでしょう。
青本の慰謝料の下限の方が、赤本より慰謝料は低いので、赤本の方が示談交渉に向いているといえます。赤本の入通院慰謝料表
原則として入通院期間を基礎として入通院慰謝料(別表Ⅰ)で慰謝料の算出をします。
通院が長期にわたり、かつ不規則である場合は実日数の3.5倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることがあります。
被害者が幼児を持つ母親であったり、仕事等の都合など被害者側の事情により特に入院期間を短縮したと認められる場合には、 上記金額を増額することがあります。
なお、入院待機中の期間及びギプス固定中等、安静を要する自宅療養期間は、入院期間とみることがあります。
傷害の部位、程度によっては、入通院慰謝料(別表Ⅰ)の金額を20%~30%程度増額します。
生死が危ぶまれる状態が継続したとき、麻酔なしでの手術等極度の苦痛を被ったとき、手術を繰り返したときなどは、 入通院期間の長短にかかわらず、別途増額を考慮します。
むち打ち症で他覚症状がない場合は入通院慰謝料(別表Ⅱ)を使用します。
この場合、慰謝料算定のための通院期間は、その期間を限度として、実治療日数の3倍程度を目安とします。〔表の見方〕
入院のみの場合は入院期間に該当する額
(例えば入院3ヶ月で完治した場合の慰謝料は145万円となる。)
通院のみの場合は通院期間に該当する額
(例えば通院3ヶ月で完治した場合の慰謝料は73万円となる。)
入院後に通院があった場合は、該当する月数が交差するところの額
(例えば入院3ヶ月、通院3ヶ月の場合の慰謝料は188万円となる。)
この表に記載された範囲を超えて治療が必要であった場合は、入・通院期間1月につき、それぞれ15月の基準額から14月の基準額を引いた金額を加算した金額を基準額とする。
例えば別表Ⅰの16月の入院慰謝料額は340万円+(340万円-334万円)=346万円となる。
むち打ち症で他覚症状がない場合は別表Ⅱを使用します。青本の入通院慰謝料表
大阪地裁の入通院慰謝料表